
中島幼八(80歳)は、東京在住の中国残留孤児で、作家です。中国・旧満州で生まれ、幼少期を東北地方の養父母に育てられ、少年期に日本へ戻りました。見た目は典型的な日本のご老人ですが、口を開くと流暢な東北なまりの中国語が飛び出します。養父母と中国への感謝の気持ちを胸に、長年にわたり他の残留孤児の肉親探しや日本社会への適応を支援してきました。
2024年、彼は黒竜江省牡丹江市沙蘭鎮への再訪を決意。高齢と持病のため、これが養育の地へ帰る最後の機念になるかもしれないと覚悟を決め、養父母の「墓所整理」を行うため、二人の位牌を日本へ持ち帰り永く供養する準備を進めています。これは単なる帰郷の旅ではなく、彼にとって心のルーツを辿る旅なのです。

佐々木秀夫(ささき ひでお)は、日本の戦後における特別なグループの中で、とても異色な存在です。彼は「怒羅権」(どらごん)という、伝説的な中国人系の暴力団組織の創始者です。
彼は中国残留孤児の二世として、子供の頃に中国から日本に戻りました。しかし、言葉や文化の違いから、学校でいじめの対象となってしまいました。でも、佐々木は普通とは違う反抗の道を選びました。
1985年、彼は同じような経験をした他の6人の残留孤児二世と手を組み、「怒羅権」という組織を立ち上げました。この名前は、日本語の「龍」(ドラゴン)の発音と、「怒り・修羅・権利」という言葉を組み合わせたものです。これは、彼らが怒りの力で、厳しい戦いの場(修羅場)で生きる権利を取り戻そうという意味を込めています。
最初はいじめに対抗する自分たちを守るグループとして始まりましたが、次第に日本社会が注目する特別な組織へと成長しました。「怒羅権」の盛衰は、残留孤児の二世たちが「自分は誰なのか」というアイデンティティの悩みに激しく苦しんだ歴史を物語っています。

上条真理子(46歳)は、中国残留孤児の二世で、所沢市にある「一笑苑」という特別養護老人ホームの創設者です。
彼女の父親は残留孤児の一世で、言葉や文化の違いから日本社会になじめず、老人ホームでいじめられることもありました。そんな父親や、同じように困っているお年寄りたちに、中国語を話せる安心できる場所を提供したいと、真理子さんは自分の家を改造し、主に中国残留孤児向けの老人ホームを立ち上げました。
今、彼女と家族はアパートに住みながら、「中国語しか話せない日本人」のお年寄りたちの世話に専念しています。老人ホームの中は中国の雰囲気たっぷりで、お年寄りたちは東北なまりの中国語でおしゃべりしたり、一緒に餃子を作ってお正月を祝ったりします。
真理子さんは経営の大変さに直面するだけでなく、「中国人が運営する介護施設」という理由で差別を受けたこともあります。それでも、彼女は残留孤児の二世として、中国と日本の架け橋となり、両方のコミュニティに寄り添う行動派として活躍しています。

上条欣也(かみじょう よしや)は、真理子さんの息子で、日本で生まれ育った中国残留孤児の三世です。
外見は日本の同世代の若者と変わりませんが、中日双方にルーツを持つという複雑なアイデンティティに悩んでいます。母親の真理子さんは、彼に中国留学を通じて自身のルーツを知ってほしいと願っていますが、欣也本人は「未知の国」である中国に強い抵抗を感じています。
竹内亮監督の映画『再会長江』の上映会で、真理子さんは監督にこう懇願しました。「どうか、私の息子に一度でいいから故郷に帰るように説得してください」
果たしてこの少年は、自らの足でその地を踏むことを選ぶのでしょうか。そしてそこで、どんな自分と出会うのでしょうか。彼の迷いと選択は、戦争が残したアイデンティティの問題が、三世の世代にまで受け継がれ、なお響き続けている証なのです。
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